1Sep
路線バスの運転士をやっていて遭遇する『乗客のハプニング』と言えば、「運賃誤投入(多く入れすぎた…)」「寝過ごし」「誤乗車」でしょうか。
新人の頃はそれぞれのハプニングに対して「・・・???」となっていたのですが、さすがに新人を”教育”する側になってからは、「どうぞ~」と慣れた感じで対応しています。
ちょっとした裏話ですが、こういったハプニングの時に冷たく接する運転士も少なくなく、ハプニングの発端が乗客にも関わらず、「接客態度が悪い!」「あの言葉使いは何だ!」などとクレームをいただくことも少なくありません。
正直、接客した運転士にも問題はあるのですが、ダイヤに追われ、乗客から小言を言われ、一般車からヒヤリを被るなど、路線バス運転士は気が張っていることが多いですので、多少のことはご理解ください。ちなみに、元営業マンの私はこの手のクレームとは無縁です(笑)
さて、話を本題に戻し、先程のハプニングでみなさん心配されるのが「運賃」の問題です。今日は、このあたりを中心に解説してみましょう。
あと、前置きしておきますが実際には「運行約款(うんこうやっかん)」と言われる、事業者ごとに定められた規則に基づきますので、対応は事業者ごとに異なります。ここでは、国交省が提示している「標準運行約款」を根拠に解説していきます。
運賃を多く払いすぎたときは「返金」されます
まず、運賃の誤投入です。
例えば、320円の運賃のとき「降車時に500円玉を運賃箱に投入したが、おつりが出てこない」というケース。
以前から書いていますが、運賃箱の設定は事業者ごとに異なり、同じメーカーの運賃箱でも「あらかじめ両替をして、ちょうどの金額を運賃箱に入れてもらう設定」と「運賃箱が運賃と投入金を判別して、おつりを自動で排出してくれる設定」の二つにわけられます。
私の住んでいる愛知県でも、前者が名鉄バス、後者が名古屋市交通局(市バス)と二大事業者で大きく異なるので、勘違いされる方が多くいますね。
さて、多く入れすぎた場合の対応ですが、基本的に「その場か窓口での返金」「相当の利用券が発行される」など、形はどうであれ戻ってくるのが通常です。もちろん、その場で入れすぎたことが確認できた場合に限られますので、後日「入れすぎました~」と言うのはダメですよ。
旅客が当社の指定する運行系統において誤って運賃又は料金を支払った場合において、当社の係員がその事実を認めることができるときは、誤払いに係る金額を精算します。(標準約款より引用)
寝過ごし、誤乗車は運賃を請求されます
一方、同じ勘違や乗客のミスでも「寝過ごし」や「誤乗車」のときは話が異なります。
旅客が乗車券の券面表示の区間と異なる区間に誤って乗車した場合において、当社の係員がその事実を認めることができるときは、その乗車区間に対応する普通旅客運賃及び料金を申し受けた上、乗車券を有効に使用できるよう誤って乗車したことを証明する措置を講じます。(標準約款より引用)
乗車券を使う路線バスは高速バスが一般的ですので、街中の路線バスではイメージが沸きにくいですが、「乗車区間に対応する普通旅客運賃及び料金を申し受けた上」と書かれていますので、誤乗車の場合は乗った区間の運賃を請求されても文句は言えません。
ちなみに、寝過ごしも誤乗車扱いに含まれます。
一方、JR・名鉄電車・名古屋市交通局(地下鉄)など、鉄道の場合は「誤乗区間の無賃送還」を定めている事業者が一般的で、申告して証明をもらうことができれば無賃で戻るとが可能です。ただし、定期券など所持している券種によって扱いが異なる場合もあります。
係員がその事実を認定したときは、その乗車券の通用期間内であるときに限って、最近の列車によってその誤乗区間について無料送還の取扱いをする。(JR営業規則より引用)
このように、同じ誤乗車でも「路線バスは運賃が請求される」のに対し、「鉄道は無賃返送がある(条件付き)」と、対応が大きく異なります。
なぜ、対応が異なるのか詳しい理由はわかりませんが、個人的な推測としては「バスは虚偽申告をして無賃で逃走できてしまう(鉄道は改札を通る必要があるため、そのリスクが低い)」ことが背景にあるのではないかと思ってます。
いずれにせよ、路線バスの場合は乗客責任の度合いが大きいので、例えば、「寝過ごし防止のGPSアプリ(登録地点に接近したらアラームで教えてくれる)」を活用するなど寝過ごしに十分気をつけてください。
「運賃はいいから次、気をつけてね」は運転士の温情
最後に、寝過ごしや誤乗車の申告を受けた際、「運賃はいいから次、気をつけてね」と対応してもらったケースを耳にすることがあると思います。実際、私もこのように対応しているのですが、ここまで説明したように「本来は運賃を請求する」のが基本です。
ミスは誰にでもありますし、余計な対応でダイヤを遅らさせたくない心理的側面から、乗客を信用して「運賃はいいから次、気をつけてね」と答えているわけですが、これらは運転士や事業者の「温情」です。
くれぐれもこの温情を利用した不正乗車(虚偽申告)は絶対にしないでください。意外にこういったケースは運転士も記憶していますし、ドラレコで映像も残っていますからね。