20Jan
今週は雪に見舞われましたね。
比較的暖かい日が続いていたためか、スタッドレスタイヤを用意していないことによるスリップ事故があちらこちらであったような気がします。ちなみに、いくら暖冬とは言っても雪道をノーマルタイヤで走るのは違反行為(具体的には各都道府県の公安委員会が定めています)になりますので注意が必要です。
さて、「日本を震撼させた」と言っても過言ではないスキーバスの転落事故からまもなく1週間。
1月15日金曜日の未明(午前1時頃)に事故が発生し原因究明が行われていますが、カギを握るドライブレコーダー(カメラ)は設置されておらず、タコグラフ(速度やエンジンの回転数などを記録する装置)もデジタル式ではなくチャート式(紙)など、原因究明が難航しているような感じを受けます。
個人的には全車ドライブレコーダーの搭載を義務付けてほしいくらいです。
ちなみに国道の監視カメラの映像から「制限50kmの下り坂を、時速80kmで走っていた。ブレーキランプは点灯しているようだった。*1」 また「運転士は9mの中型バスが主で12mの大型バスは数回しか運転していなかった。*2」と伝えられていますので、「スピードの出し過ぎによるハンドル操作の誤り」ではないかと個人的には思っています。(あくまで推測ですが…)
経験不足の運転士を投入せざるを得ない実情
それにしても、大型バス(12m)の経験がほとんどない状態で乗務していたと聞いてゾッとした方も多いのではないでしょうか?
ただ、運転士をしている私から言うとこれが「現実」だと思います。
例えば、ある大手のバス事業者の場合、いくら新入社員が高速バスや観光バスに乗務したくても、まずは一般道を走る路線バスで経験を積ませます。その後、12m車両の特性・高速道における運転技法・山道の走り方などの研修を経て初めて高速乗務や観光バスの乗務が可能になるそうです。
このあたりは、新幹線の運転士になるために在来線の運転経験を積ませるJRや、特急列車を運転するために普通列車や急行列車の経験を積ませる小田急などの鉄道事業者に近い印象です。(聞いた話なので間違っていたらごめんなさい)
話をバス業界に戻し、今回事故を起こしたバス事業者をはじめとする業界全体の教育体制はどうでしょう?
恐らく、日々の業務をこなすのが精一杯で教育やキャリア形成なんて言ってられる状態ではないと思います。
先程、大手バス事業者のキャリア形成の話を出しましたが、大手ですら人材確保に苦労している状態ですから、「人に余裕がないから経験不足でも実践に投入せざるを得ない」と言うのが多くのバス事業者の本音でしょう。厳しい経営環境を迫れられている零細企業であればなおさらかもしれません。
もちろん、経験の浅い人を実践に投入するのはバス業界に限った話ではありませんが、バスに関しては「うっかりミス」が多くの人命を危険にさらすことになりますのでしっかりとしたキャリア形成(研修)が求められる職業だと思います。
ちなみに私の会社では経験の有無に関わらず、入社後は机上・実技を含めて数週間の研修が設けられており、乗客が乗った実車を運転するのはそれ以降でした。
今こそバス事業者が強気に出るとき
こういう事故があるたびに話題になるのが「最低運賃」です。
今回も旅行会社による”叩き”(値引き交渉)が行なわれていたそうで、約27万円の下限額を下回る約19万円で契約*3していたそうです。
この叩かれた8万円分はどこで経費削減するのでしょう?
人件費・高速代・保険料・整備代金くらいしか思い浮かびませんが、一番削りやすいのは人件費ですね。
結果、「賃金安から若い人の成り手はいない」「再就職の困難さから、条件が悪くても乗務をせざるを得ない高齢運転士」という構造になっていると思います。
「安さ」の裏側にはこういった事情や副作用もあるわけです。
最近、「外国人旅行客の増加」「オリンピックに向けた特需」などバス需要の高まりを感じさせるニュースをよく聞きます。
これだけ聞くと私なんかは「最低○○万円でないと受けられません!」と、いまこそ「旅行会社あってのバス事業者」ではなく「バス事業者あっての旅行会社」という強気な業界になるべきだと思います。(営業から言わせれば「そんなに簡単じゃないよ」と突っ込まれるかもしれませんが…)
もちろん、そのあたりを理解して契約をしている旅行会社やバス事業者もあるでしょうから一概には言えませんが、少なくても現在の体質を改善してかないと同じような悲劇は繰り返されるでしょうし、要因とも言われる規制緩和が果たして最善だったのか国も検証してみる必要があるような気がします。
それにしても、大手・中小・零細企業に関わらず真面目にやっている事業者と、そうでない事業者との差が激しいのも問題でしょうね。
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*1 産経新聞 2016年1月20日
*2 毎日新聞 2016年1月18日
*3 日経新聞 2016年1月17日