28May
バスの運転士が始業時と終業時に行うのが「点呼」です。
サラリーマンで言うところのタイムカードを押す行為に相当するのですが、運転士の場合はアルコールチェックや体調確認など法令で定められた項目を「運行管理者」と呼ばれる国家資格を持った管理者と対面で行うことが義務づけられています。(宿泊勤務や補助者など特殊なケースについても色々定めがあるのですが、難しくなるので割愛しますね)
この点呼ですが2018年6月1日から「乗務前点呼で”睡眠不足”」について確認することが義務づけられました。
これが色々波紋を呼んでますので少し掘り下げて説明してみましょう。
省令改正の概要
まず、2018年5月31日までの法令(省令)では「疾病・疲労・その他の理由により、安全な運転ができない場合は乗務をさせてはならない(要約)」となっていたのですが、6月1日から疾病・疲労に「睡眠不足」が加わります。
つまり、「乗務前の点呼で”睡眠不足”明らかになった場合は乗務させてはいけない」と言うわけです。
では、なぜ波紋を呼んでいるのでしょう?
一つ目は、睡眠不足と言っても「勤務がハードで睡眠不足」のケースもあれば、「前日が休みなのに夜更かしをして睡眠不足」など睡眠不足の原因が様々であることが言えます。
朝はシャキッとしていても、お昼過ぎに睡魔に眠たくなることはよくありますよね。特にSAS(無呼吸症候群)の方は「朝は良くても突然睡魔に・・・」と言うこともあるでしょう。
このように個人差が激しい睡眠状況(睡魔)について、漠然と乗務前点呼で確認しただけで事故を防止するのは無理と言えるわけです。
そして、一番怖いのが「運転士への責任転嫁」です。
正直、あまり大きな声では言えないのですが、点呼は”あいさつ”のような形式論の部分が大半なので、点呼時に眠たくても「睡眠不足ではありません」と言うことが容易に想像できます。
実際、運転士が「睡眠不足です」と申告すれば、上層部から忌避(きひ)されるのがオチでしょう。
それ故、睡眠不足ではありませんと申告して事故を起こした場合、事業者は「”睡眠不足ではない”と運転士に確認した」と逃げることができ、その責任は運転士に押しつけられるわけです。
でも、考えてもみてください。
このサイトでも「16時間拘束」や「中休」などについて記事を書いてきましたが、運転士の労働環境は正直「劣悪」です。
それに睡眠不足に起因する事故の大半は「事業者が改善基準(拘束時間などに関するルール)を遵守していない」ことや、「そうしないと現場が回らない業界の実情」があるわけです。
法令違反の勤務は論外にせよ、法令ギリギリの勤務を運転士に強いるバス業界の現状を考えると、運転士へ責任を押しつける(事業者の逃げ道を作る)かのような省令改正に疑問を感じます。
実際、小手先だけの対策に、運転士の多くは「睡眠不足について聞かれるらしいね。毎回”睡眠不足”って言ってやろうか」と笑い飛ばしています。
睡眠不足に焦点を当てるのであれば、「改善基準」「賃金」「運転士不足」など包括的に議論すべきだと思いますが、お役所のみなさんや有識者を語る方々はどう考えているのでしょうね。(と、ちょっと皮肉を込めてましました)
この件は、しばらくしたら追って書いてみようと思います。