24May
事故やトラブルなどをブログで書くとき、「ヒューマンエラーを防ぐためには精神論より物理的な対応が一番効果的」と以前より言ってきただけに、5月22日金曜日のJR九州で発生した特急列車の誤進入のニュースには驚かされました。
日本の列車はATS(自動列車停止装置)など安全対策が施されている上、信号機などの制御はコンピュータが管理しているとの認識が一般的でしたから「なぜ?」というのが率直なところです。
既に国交省の専門家チームも調査に入っていますが、これまで報道された内容をまとめると、信号機やポイントを操作し運転士に指示を出した司令員と、運転士との意思疎通がうまくいかなかったことによるヒューマンエラーが今回のトラブルの原因のようです。
今日は同じ公共交通に携わる者の立場から今回のJR九州の件を素人なりに考えてみようと思います。
なお、この記事は報道で発表されている情報を私なりにまとめた記事(個人意見)です。また、図解もイメージとなりますのでその点をご理解ください。
トラブルの概要
JR九州の特急かもめ19号が、特急かもめ20号が停車している肥前竜王駅の待避線に誤って進入したというもので、一歩間違えれば正面衝突事故に至っていたトラブルとして大きく報道されました。
もともと肥前竜王駅では特急かもめの対向予定はなかったそうですが、誤進入したかもめ19号が駅手前で異音を感じて緊急停車したため、かもめ20号が一駅進み肥前竜王駅で急きょ対向となったそうです。
微妙な位置に緊急停止したかもめ19号
さて、報道では司令員と運転士のやりとりで「どの位置で緊急停車している」という点で意思疎通が図られていなかったことが誤った指示の原因と言われています。
また、停車した位置がシステム的に”微妙”だったこともトラブルを招いた要因とも考えられているのですが、緊急停車したかもめ19号の停止位置を報道を元に図解するとこのような感じになります。
本来、列車は信号機を通過すると赤信号に変わります。また、赤信号で誤進入してしまったときはATS(自動列車停止装置)により停止することが広く知られています。
しかし、かもめ19号が緊急停車した位置は信号機が切り替わるセンサーの直前であり、運転士は「信号機を通過してしまったので赤に変わった」と思っていたそうですが、実は信号はまだ青だったそうです。また、誤進入を防ぐATSを超えているため、司令員が信号機を赤に切り替えても誤出発したときにATSが作動しないという絶妙な位置に停車してしまったそうです。
司令員が停車している位置を勘違いしていた
そして、今回のトラブルの発端となった緊急停車した位置に関する問題です。司令員はなぜ停車位置を勘違いしたのでしょう。
報道によると、運転士は停車位置について運転席のモニターに表示してある距離をもとに「(起点から)49km」と伝えたそうです。一方、司令員は信号機の設置位置は49.16kmとの認識があったため、司令員は信号機の160m手前で停車していると誤解してしまったそうです。
仮に、かもめ19号が信号機のセンサーを通過し赤信号に変わっていたら、信号機の変化は指令所でもモニターしているはずですから、信号機が赤に変わっていなかったことも誤解の原因なのかもしれません。
ただ、個人的には起点からの距離と言う風景イメージがつきにくい目標ではなく、架線柱の番号や踏切名など具体的なものを停車位置を示す目印としてやり取りすれば防げたのかもしれないとも思います。実際、架線柱の番号や踏切名などをやり取りに含める鉄道事業者もあると言いますから有効策のひとつなのかもしれません。
さらにGPSが列車にも装備されていれば、位置の特定に関して言えばかなりの精度で特定できたのかもしれません。あくまで個人的な感覚ですが、GPSは鉄道業界では必要性が薄いのか導入されている例は少ないように感じます。
肥前竜王駅に同時進入していれば危険だったかも?
こういった誤解の中、司令員はかもめ20号が待避線に停車したことを確認した上で、かもめ19号を今回のトラブルの発端となった信号機手前まで一旦進めて(160m進めて)ポイントを本来の本線側に操作し駅に進入させる予定だったそうなのですが、結果的にかもめ19号に出した出発の指示は赤信号を冒進させるものになってしまったようです。
一番怖いのは、かもめ19号は既にATSが作動する位置を超えてしまっていたので、正面衝突を回避する方法は運転士の非常ブレーキしかなかった点です。さらに、かもめ20号の待避線進入を待たずに再出発の指示をかもめ19号に出していたら大変危険な状態だったかもしれません。
過去の重大事故はヒューマンエラーが原因
緊急停止などのハプニングによる対向駅の変更やダイヤ変更などはJR九州に限らず鉄道業界では当たり前のことだと思います。そして、臨機応変な対応によって利便性が維持されているのも確かです。しかし、それは安全が担保された状態であることが絶対条件となります。
現在の鉄道業界は冒頭にも書いたように様々な保安システムによって安全が担保されています。しかし、そのシステムを操作する人がミスをすることによって大きな事故に至るケースもゼロではありません。実際、1991年に発生した信楽高原鉄道の正面衝突事故も、安全を確認しないまま赤信号で信楽駅を発車させたことが原因と言われています。
鉄道に限らず、バス業界も事故が起きるたびに再発防止のための機械的手段が講じられますが、どんなにシステムが優秀でも事故の根本に人が関係するのは永遠の課題と言えそうです。
今回の教訓の一つとして、異常時における連絡や対処方法について、「いかにわかりやすく状況や方法を正確に相手側に伝えるのか?」と言う点が挙げられるのではないでしょうか?
マニュアルの改訂や基本動作の徹底も大切なことですが、異常時における対応こそが公共交通に従事する人の力量のような気がします。
※記事は現在までの報道内容をもとに構成しておりますので不完全な記述がある場合があります。また、あくまで素人の書いた個人意見が中心ですのでその点をご理解ください。