21May
運転士の仕事の中で一番多いのが「ドアの操作」です。
以前から書いているのですが、路線バスでも「駆け込み乗車」や「ドア挟み」と言ったハプニングが付きものですのでドア操作も気が抜けません。
さて、そんな路線バスのドアですが走行中に開いたり、ドアを閉め忘れて発車すると大変危険なため「インターロック」と言うシステムが搭載されています。
この装置の役割は大きく二つあり、ひとつは「走行中に誤ってスイッチを操作してもドアが開かない」ように回路が組成されている。もう一つは「ドアが完全に閉まらないとアクセルが踏み込めない」というのもで、これまで路線バスメーカーの多くがこの方式を採用してきました。
しかし同時に「クラッチ操作(MT車)やクリープ現象(AT車)で進んでしまう」という弱点も指摘されていました。
新ワンマンバス構造要件
そこで、2012年7月に国土交通省は路線バスにおける事故防止策(設備面)の見直しに際し、「中扉が開いているときは動力の伝達をカットする機能を搭載しなければいけない」ことを「新ワンマンバス構造要件」に盛り込みまた。「動力の伝達カット…」ですので、先程のようにドアが開いている状態でクラッチペダルを上げて動いてしまうのもダメというわけです。
では、メーカーはどのようなシステムにしたのでしょう? ISUZUの解説ページを元に説明していきましょう。
(出典:ISUZU)
まず、バス停に到着したら、シフトレバーを「N(ニュートラル)」ポジションにしてからスイッチを開にしてドアを開けます。このとき、たとえ停車しクラッチペダルを踏んでいてもシフトレバーが5速などに入った状態では扉スイッチ操作してもドアは開かずピピピピ♪と警告音が鳴るようになっています。
逆に、出発するときは、ドアが閉まりきってからでないとシフトレバーが操作できず、仮にドアが閉まっていない状態でシフトレバーを2速に入れるとピピピピ♪とこちらも警告音が鳴り響きます。当然、シフトの入りませんのでクラッチペダルを上げてもバスは進むことはありません。
一方、AT車は車種ごとに仕様が異なり、乗用車などと同じようなシフトレバータイプのものはMT車同様「N」ポジションでないとドア操作ができないシステムなのですが、ボタン式のものはドア操作に連動して自動でNポジションでロックが掛かるシステムが採用されています。
運転士からの評判がよくない新システム
さて、2012年7月に設けられた新基準。肝心の運転士の評判はと言うと…
実は「不評」なんです。
まず停車ですが、「停車寸前にプー♪と予告音が鳴って、停車したと同時にドアが開き出す」というイメージがありませんか? これは停車寸前にドアスイッチを操作しているからなのです。要するにフライングでスイッチを操作しているわけですね。しかし、新システムだとフライングすると”走行中”と判定され警告音が鳴り響きます。
そして、出発です。これまではドアスイッチを閉にしたと同時にクラッチペダルを踏み込んでシフトレバーを2速に入れる(閉まり次第すぐ出発できる体制を整えている)運転士が多かったので、ドアが閉まりきるまでシフト操作ができない新システムにわずらわしさを感じている運転士が多いようです。(私も含め…)
正直、路線バスは専用道を走るわけではないので後続車のことも考えなければいけません。片側二車線で追い越しができる道路ならまだいいですが、片側一車線で対向車線の交通量も多く後続車の追い越しが難しい路線となると、割り切ってはいるもののバス停での停車時間も「1秒でも早く…」となるのが運転士の心理です。
本来、「路線バスの安全はこういうシステムにも助けられているんですよ!」とみなさんにお伝えしたい部分もあるのですが、ここだけの本音を言えば「(MT車は)インターロックで十分じゃん…」と思ってしまいます。
でも、事故防止を考えると物理的な対応が一番望ましいのは確かですね。