18Apr
運転士になって間もない頃、終車の乗務も終点近くになり「これで今日の乗務も終わりだ!」と余裕だったときのことです。
「明日はどこにいくの? 私は買い物に行くから一緒に遊べないよ…」
と客席から女性の声がちょっと大きめに聞こえました。最初は「一緒に乗った人と会話しているのかな?」と思ったのですが、車内のミラーでパッと見ると10名ほどの乗客は”おひとり様”で乗車されています。
「ってことは携帯電話かぁ(ため息)」
正直、終点まであと15分ほどの距離ですしアナウンスするのは正直面倒なのですが、逆にアナウンスなどで注意しないと「なぜ、運転士は注意しないの?」と他の乗客から指摘を受けることもあるので、仕方なくアナウンスを入れることにしました。
ただ、アナウンスを入れても会話は終わるどころか延々続き、「あと少しで乗務が終わるのに…」と私はイライラモード突入。「こうなったら撃退してやる!」とバス停を通過するごとにアナウンスを入れるのでした。
その後、「通話が終わったかな?」と思った次のバス停でその女性が降車していきます。運賃箱にお金を入れるとき「あなたね。車内での通話は迷惑なんだよ! ちょっとは他の乗客のことも考えろよ!」と喉元まで声が出かかったのですが、まさかそんなセリフが言えるわけでもなく「はい、どうぞ」とそっけない対応(精一杯の反撃)をして降りてもらいました。
そして、回送に突入したのですが、ふと…
「あの女性、本当に携帯で通話していたのかなぁ?」
と疑問を感じました。
今ならしっかり車内ミラーで乗客を観察することができますが、運転士になって間もない頃の話ですからチラッと見るのが精一杯です。チラッと見た感じではハンズフリー用のイヤホンマイクをしていた感じはなく、かと言って携帯を耳元に当てている感じもしませんでした。ただ窓の外を眺めつつ話をしている感じです。
そんな疑問を感じつつ車庫に戻り、ほぼ同じ時間に戻ってきた大先輩(主任運転士)に今夜のエピソードを話すと…
「あぁ、ひとりごとを話す人かぁ。最近見なかったけど、今日乗ったんだね」
『えーー、ひとりごとですか!?』
正直、通話をしている(会話が成立している)と思っていた私は驚いたと同時に「そりゃ、”携帯電話の通話はご遠慮ください”と言っても会話は終わらないよね」と思った乗務です。
その日から数年経ちますが、それっきりその乗客とは遭遇していません。今思えば”貴重な体験”だったのかもしれませんね。