17Jul
2016年12月、川崎鶴見臨港バスのストライキをきっかけに「中休勤務」の問題がクローズアップされましたので、2015年7月に投稿した記事に加筆修正をした記事を再掲載します。
今回、ストライキをきっかけに注目を集めた勤務体系が「中休」です。
以前からブログで書いているのでご存知の方も多いかもしれませんが、今日は改めてこの問題を取り上げたいと思います。
まず、路線バス運転士の勤務形態は大きく「早番」「遅番」「通し」「中休」の4つに分類されます。中休以外の勤務形態については一般の企業でも取りいれられている勤務形態ですので説明は必要ないかもしれませんね。
そして、馴染みのない運転士特有の勤務形態が「中休」です。ちなみに事業者によって「中憩」「中抜け」「中間解放」など呼び方は様々ですが基本的に同じ内容です。
さて、中休と呼ばれる勤務があるのは、限られた人数の運転士で朝・夜のピークを乗り越えなければいけない背景があるからです。
路線バスは朝の出勤(登校)時間と、夜の退勤(下校)時間に運行本数が多く設定されていますよね。そのため、運転士の稼働人数も朝夜が一番のピークとなります。
しかし、本数が少ない日中は運転士の人余りが生じるのですが、朝から夜まで一人の運転士を拘束していると、人件費や労働時間など様々なことに影響するため、朝のピークが終わった段階で運転士を一旦勤務から解放して、夕方再び出勤させる中休勤務が存在します。
中休は拘束時間に含まれない!?
では、肝心の中休の問題点について解説していきましょう。
バス運転士の勤務時間については「バス運転者の労働時間等の改善基準(国交省)」により詳細が定められているものの、「16時間拘束」が条件下で認められていることや、「休息時間(一日の勤務が終わって翌日出勤するまでの時間)は最低8時間空ければ良い」など、決して「運転士に優しい基準」とは言えません。
また、中休についても「拘束時間に含まない」とする事業者も多いためため、長時間拘束に拍車をかけています。もっとも、「中休時間も拘束時間に含めるべき」との指摘も他方からあるのですが進展しないのが実情です。
それでは、勤務例をもとに説明してみます。
極端な例ですが、週5日の勤務がすべて中休勤務で昼間の中休を拘束時間に”含まない”場合の解説図です。
中休を拘束時間と考えなければ一週の拘束時間は50時間となり、国交省の定める「1週間当たりの拘束時間は原則として65時間が限度」と言う基準はクリアします。また、「休息時間は最低8時間空ければ良い」と言う基準もクリアします。
しかし、同じ勤務でも中休を拘束時間に”含む”と下図のようになります。
中休を拘束時間として計算すると、一日あたりの拘束時間は16時間(一週間で80時間拘束)となるため、国交省の定める「1週間当たりの拘束時間は原則として65時間が限度」と言う基準に違反します。さらに、「一日15時間(拘束時間)を超える勤務は週2回まで」とされていますので、3日目以降の勤務も基準違反となります。
このように、中休を拘束時間に含むのか含まないのかによって、運転士の勤務時間・人数・行路編成に大きな影響を及ぼすわけです。
中休は拘束時間にすべし!
さて、ここからは私見になりますが、運転士にしてみれば中休を拘束時間に含んでくれれば体の負担は多少なりとも軽減できますので、「中休を拘束時間に含んでくれる事業者は、拘束時間に含まない事業者に比べて運転士に優しいのでは?」解釈することができるような気がします。
現在、中休を拘束時間に含まず運転士を長時間に渡って運用している事業者が多いのも事実ですが、中休と言っても後半の勤務に備えているわけですから、前半の勤務が終わってもサラリーマンのように「お酒を飲みに行く!」などと言うことはできず、常に緊張状態は続きます。
さらに、後半の勤務が終わってから翌日の勤務までは8時間しか保証されていません。もちろん、ここから通勤・夕食・入浴時間が差し引かれますし、子供がいる家庭だと出勤は早朝、帰宅は深夜となるため「子供の寝顔しか見ることができない」と言う日々が続くことを考えれば、中休は拘束時間に含めるべきだと思います。
そして、目に見えない中休勤務の恐怖が「健康被害」です。
今回のストライキでも強調されていましたが、中休勤務が続くと連日睡眠不足で乗務する可能性が高くなります。加えて、睡眠不足による脳卒中や高血圧などの健康被害も懸念されますから、運転士の心身状態や安全面からも中休勤務は最小限に抑えるべきと考えます。
すべては規制緩和に端を発する!
かつてはそこそこの給料があったと言われるバス業界ですが、規制緩和に端を発する価格競争、路線バスの需要低下、人件費削減、人手不足など負のスパイラルから中休勤務の割合が多くならざるを得ない状況が続いていることに加え、運転士も休日出勤や残業をしないとまともな給料にならないことも事態を悪化させている要因と言えるでしょう。
このような状況下で、周囲の交通からの保護されていない一般道をダイヤを意識して運転し、さらに車内で転倒事故が起きたときは運転士が責任を問われ、乗客からのクレームにも対応し、そして安月給となれば運転士の成り手はいないですよね。
中休に似た勤務形態はバス業界に限らず、レストランをはじめとする飲食業界など他業界にもある話ですから「路線バスだけが…」と声高に言うつもりはありません。
しかし、“ヒューマンエラーが人命に直結”することを考えれば、中休勤務の削減や長時間残業をしなくても世代相応の年収を運転士に支給する体制に改善していく努力が事業者に求められるような気がします。もちろん、このような業界状況に追いやった規制緩和も糾弾されるべきでしょう。
最後に、勤務のローテーション(運転士の行路)を決めるのは各事業者です。中休の割合が少なく運転士への負担が少ない行路編成をしている事業者もありますので、「すべての事業者が…」とは言えませんが、国交省が定めた基準やこれらの業界事情を知っていると、夜行バスに乗る勇気がないのが正直なところです。
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(2017.1.21 修正)