路線バス運転士になった元ウェディングプランナーの乗務日誌

menu

路線バス運転士こーくんのブログ

「”すみません回送中です”と方向幕で表示するなら実車にすれば…」とは行かない回送理由

「すみません回送中です」と方向幕で表示するなら実車にすれば… とは行かない回送事情

先日、回送バスが「すみません回送中です」と低姿勢な方向幕を出していることがネットで話題となりましたがご存知ですか?

もっとも最近は自由度の高いLED方向幕が普及したこともあって、『あの珍百景行き』『AKB48選抜総選挙会場 ヤフオクドーム』など一風変わった方向幕が注目されることも多々ありますよね。

ただ、今回話題となった「すみません回送中です」の方向幕はLEDタイプではなく”幕”時代から採用されているタイプなので、現在のように”話題性”と言う側面ではなさそうです。

そこで今回は運転士の立場としては非常に共感できる回送事情について色々書いていこうと思います。

※アイキャッチ画像:wikipedia

そもそも回送って何?

バスに限らず、鉄道やタクシーにも「回送」と言う種別が存在します。

いまさら説明はいらないと思いますが、回送とは客扱いをしない車両を意味し、車庫から始発地への送り込みや終点から車庫への引き上げ、さらには整備工場への移動など「乗れないよ」と言う意味で使用されます。

ちなみに、観光バス・路線バスなど車種に関わりなく営業運転ではない回送車は大型一種免許で運転することが可能です。つまり、大型トラックのドライバー(大型一種所持者)が回送の路線バスを運転しても問題はないと言うわけです。

回送を実車にしない理由

さて、バス停でバスを待っているときに目の前を回送車が通過したら「どうせ同じ方向に行くなら乗せてくれればいいのに!」と思ったことはありませんか?

私も運転士になる前は同じことを思いましたが、なぜ実車にできないのでしょう?

一つ目の理由は”走行距離と時間”です。

多くの方は回送時に走行するルートは実車と同じルートを走行していると思っているでしょうが、実は実車ルートと回送ルートは異なるケースが一般的です。

実車では、駅・病院・学校・商業施設など色々な場所を結んで目的地を目指すためどうしても遠回りとなり距離と所用時間が長くなります。当然それらは経費(距離は燃料代、時間は人件費)に直結してきます。しかし、回送であれば最短距離を最大効率で走ることが可能となりますので走行距離や時間が大幅に節約できるわけです。

それに、バス停を通過した回送車がその路線の車両とは限りません。中には、はるか遠い地域に向かう車両もあるでしょうし、その逆に一仕事終えて戻ってきた車両も紛れています。

二つ目の理由は”走らせなければいけないリスク”です。

路線バスは運行計画に基づいてバス停やホームページなどでダイヤを公開しています。つまり、特別な理由がない限り走ることを約束しているわけです。そのため、車両故障や大幅な遅延でも代車を使用するなりして運行を継続(可能な限り)させるわけですが、回送車はそれらのリスクがありません。

極端な話、実車を終え車庫に戻る回送途中で通行止めに遭遇しても、最終的に迷惑を被るのは足止めを食らった運転士だけです。そして、車庫に戻ると運が悪い運転士として注目の人になれます(笑)

三つ目の理由は”不測の事態に対応できる”と言う点です。

例えば、ある実車が通行止めなどに巻き込まれ折り返しが大幅に遅れる場合、近くを走っている回送車を折り返し便の実車に運用変更し、遅れを増大させないと言う臨機応変な対応も可能になります。

これは鉄道でも行なわれていることですが、バスも同じことが言えるわけです。(ちなみに私も回送予定が急きょ実車に変更させられた経験があります。正直「えーー!」ですけどね)

このように、路線バスと言っても経費やリスクが生じる以上、利用者が見込めない時間帯は回送として効率化を図っているわけです。ただ、「出入庫系統」として短距離でも実車として運行しているケースもありますので、このあたりは事業者や自治体ごとの判断によるのが正直なところです。

「すみません回送中です」に込められた意味

では、肝心の「すみません回送中です」の真意は何でしょう?

この「すみません」とは、周囲の車に対してではなくバス停で待っている乗客に対しての意味合いで使われています。このあたりはニュースの記事でも触れられていましたが、バス停で待っている乗客を横目に回送で素通りするのは運転士として気が引けるものです。

私が一番つらかったのは、雨の中、屋根のないバス停で小さな子供を連れた親子がポツンと待っていたときです。イメージ的にはコレ(↓)がぴったり!


となりのトトロ 雨のバス停(楽天市場)

まぁ、ここまでメルヘンチックなものではありませんが、このシチュエーションを回送で通過するのは心が痛みましたね。(所定だと数分後に実車が通過することになってはいましたが…)

それが嫌で実車と回送が重なる区間はあえて別のルートを使用する運転士もいるほどですから、「すみません回送中です」を掲出していることは他人事とは思えないわけです。 

(注)実車は運行計画で定められたルート通りに走行する必要性がありますが回送は基本的に適応外です。しかし、事業者ごとに回送ルートが設定されているのが一般的です。

ただ、「すみません回送中です」と言う表示が素直に乗客に受け入れられるかどうかは、地域性・利用者の価値観・事業者の方針などの問題がありますのでそこまで普及しているとは言えませが、多くの運転士はこのような気持ちで運転していることを理解していただければありがたいですね。

LINEで送る
Pocket

関連記事

「優良バス会社への就職を加速させる」バス運転手総合サイト「バスギアターミナル」